| ここ最近、玉山鉄二から目が離せない! 『逆境ナイン』の熱血野球青年・不屈闘志役で、正統派イ ケ面俳優のイメージを粉砕!?したかと思えば、『NANA2』で続投したタクミ役では、マンガ的なクール・キャラにきちんと血を通わせ、『手紙』の罪人役 では後悔の慟哭をほとばしらせた。そして最新作『フリージア』の主人公、ヒロシ役もすごい。原作・松本次郎×監督・熊切和嘉という鬼才コンビの世界観を見 事に体現しているのだ! 『フリージア』の舞台は、犯罪被害者の遺族が加害者に対して復讐できるという“敵討ち法”が成立している近未来社会。彼が 扮するのは、感情も感覚ももたない敵討ち執行代理人ヒロシ。的確に獲物を見据え、氷のような眼差しでシューティングするハンターぶりにはしびれたが、玉山 鉄二はヒロシ役のどんな点に惹かれたのか。 「脚本をいただいた段階では、正直言うとよくわからなくて。それで原作の漫画を読ませていただき、その時に感情をもたないヒロシ役に扮した自分を客観的に見てみたいなと思ったんです」 役作りにおいて重要だったアイテムがいくつかあったという。衣裳と監督からもらったDVD、そしてモデルガンだ。 「衣裳さんが作ってくれた青いレザー・ジャケットを着て眼鏡をかけた時、ぐっと役柄に近づいたような気がしました。役作りの伏線を敷いてもらったというか。 また、作品中にガン・アクションがあるので、監督から『コラテラル』(トム・クルーズが殺し屋役の映画)のDVDを見て勉強してと言われました。一緒にモデルガンも渡され、それを毎日触っていました」 彼はこの役作りをこんなふうにたとえる。 「アスリートと同じで、繰り返し練習して理想に近づけておけばおくほど、現場に行った時の不安感がなくなる。だから自分のために、極力役作りは頑張ってやっています。今回は特に自分とはかけ離れた役柄だったので内面的な部分にもどっぷり漬かることができました」 内面といえば、今回喜怒哀楽のない難役だったが、どのようにアプローチしていったのだろう。 「台 詞も少なくてすごく難しかったのですが、自分の頭に“思い”をもっていれば、別に動作で示す必要はないんだっていうことを、今回熊切監督から教えてもらい ました。10のうち10割を表すのは表現し過ぎだという考えの方だったので、現場では『抑えて抑えて』とよく言われましたよ」 抑制のきいた演技での彼の眼差しは、内に秘めた思い、孤独、哀しみをたたえ、言葉よりも多くのものを訴えかける。殊につぐみ扮する同僚ヒグチとの穏やかな交流のシーンでは、イノセントさも醸し出している。 「全体的に奇抜でハードな題材なので、ヒグチとヒロシのシーンくらいはちょっとポップな感じにしたかったんです。気持ちを表に出すこともないし、自分がその子を好きかどうかもわからない、幼い頃の恋愛のようなうやむやなテイストが出ればいいなと。ヒロシ自身もきっとその気持ちを恋だと気づいていないだろうし。基本的には、敵討ち執行の時以外は子供でいたいなと思っていました。生きてるというよりも“生かされている”っていう感じにね」 こ の“生かされている”という言葉は、まさにヒロシの境遇を表すにふさわしい言葉だ。実はヒロシとヒグチは15年前に政府が行った瞬間凍結爆弾実験「フェン リル計画」のトラウマで、人間的な感情や感覚を奪われたという設定だから。そんな背景も含めて、彼はヒロシという役になりきることで、心身共にかなり消耗 したと言う。 「精神的にも体力的にも辛かったです。その時は“無”の状態だったと言うか、役に入りきっていて空っぽな感 じでした。周りのものは何も入ってこない自分がいて。まさに“生かされている”感じ。現場以外でも同じで、いつもは僕、食べることとかがすごく好きなんだ けれど、その時は全く食欲がなくなったり、友達と話していてもぜんぜん中に入ってこなくなったりと、不思議な感覚に陥りました。ここまでディープな役は今までにありませんでした」 ちなみに、本作に続いて『手紙』の撮影に入ったそうだが「両方ともかなり辛かった」と語る。でも難役を演じきったこの両作品によって、役者としての感性が研ぎ澄まされたのは間違いないだろう。 |
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「フェンリル計画」の最高責任者の息子で元上官のトシオとヒロシとの決闘シーンが、この映画のクライマックスだ。このふたりの死闘はもちろん、トシオに扮した西島秀俊と玉山鉄二との演技対決が、観る者を興奮させる! 「片 や感情を抑えた人間と、片や感情を表に出した人間とがぶつかり合うんですが、特に堤防の上での芝居(闘いを前に、長いときを経てふたりが対峙するシーン) が印象的でした。西島さんの演技にすごく引き込まれていったんです。言葉にはないけれど『お前もこっちへ来いよ』って言われているような感覚でした。お互 いに殺し合う相手なのに、その相手に男としての潔さみたいなものを感じて自分のテンションが上がっていく……それがすごく楽しかったです」 本作は役者としての手応えも大きかったのではないか。 「うーん……わからないです。たぶん手応えを得るためにいろんな作品に挑戦していて、大なり小なりすべての作品が、今の自分を作っているのだと思ってはいます」 その成長ぶりは、本作はもとより、『手紙』『NANA2』など、昨年公開された作品群が何よりも雄弁に物語っている。 「昨年は気づけば映画を6本くらいやらせていただいてて、いろんな役に出会うことができたし、本当に恵まれた1年でした」 ではそれらの作品を経て、心境の変化はあったのだろうか。 「責 任感は増してきました。でも、自分の頭で思い描くビジョンと、実際出来上がったものとの間にはまだまだ距離があります。そこを埋めていくことが、たぶん一 生の課題なのでしょう。だから、こういうふうに見てほしいとか、こう感じてほしいとかって押し付けたくはないんです。何かを考えるきっかけになったりした らそれだけで十分かなって。昨年たくさんの作品に出演して、そう思うようになりました」 では、今後トライしてみたい作品について聞いてみたい。 「自分自身が、ティー ンの時に見た作品にものすごい影響を受けたので、そういうものを与えられるような作品に出会いたいです。ちょうど中高生の時に観た『聖者の行進』や『人間 失格』、『未成年』などのドラマなどがそうですね。ティーンって吸収するのが早く、フットワークも軽いし、瞬発力もある。そういう人たちにいろいろと感じ てもらえれば嬉しいです」 目指すべき俳優について尋ねると真田広之、ジョニー・デップの名前が挙げられた。そういえば 熊切監督は、ヒロシ役に扮した彼について「まるで『シザーハンズ』のようだった」と感想を述べていたっけ。本人曰く、「日本のジョニー・デップになりた い」とのことだから、何よりも嬉しい賛辞ではないか。今後ハリウッドにおけるジョニー・デップのように、日本映画界のナンバー1スターを目指して躍進し続 けてほしい。 ●2月3日(土)より、渋谷アミューズCQN、新宿K's cinemaほかにてロードショー 『フリージア』公式サイト |